2020.8.8 心理学講座 怒りとけんかのコミュニケーション⑤
第5章「感情の再体験」について
まずみなさんにちょっとだけ、思い出していただきたいことがあります。
それは、ずいぶん前に腹が立ったときのことです。
それはどんなときで、どのようなことがきっかけで、どんな感情がわきあがってきたか、ということをみていただきたいんです。
よかったら紙に書いていただくと、わかりやすいかもしれません。
すると、当時のことを思い出して、なんとなくむかついてきたり、また自己嫌悪が出てきたりと、いろんな感情がわきあがってくるかもしれません。
実は、過去にあったことを思い出して、今その感情が出てくるというのは、実は経験をした当時の自分が今ここにいることになります。
もう少しわかりやすくいうと、腹が立ったのは過去のことかもしれませんが、今それを思い出して腹を立てたとすると、当時の怒りの感情を今感じている、ということになるわけです。
例えをあげてみましょう。
町を歩いていてカレー屋さんの前を通ったとします。
すると、お店からは何ともいい匂いが漂ってきますよね。
皆さんは、ここで何を感じるのでしょう?
「ああ、おいしそうだな」と感じるかもしれませんし、カレーの味を思い出しているのかもしれません。カレーの食べたときに記憶している様々な感覚が、におい一つでよみがえってくるんですよね。
でも、そのカレーは今食べているものではなく、過去に食べたことのあるカレーを思い出しているにすぎないということは、誰しもが理解できますよね。
このように、感情や感覚が、何らかのきっかけによって、過去の経験から今この瞬間に感情を思い出させてしまうことを「感情の再体験」といいます。
実際に感情は一度体験した事は忘れる事がないですから思い出すだけでいつでも当時の自分(の感情)に戻ることができるんですよね。
PTSDやトラウマも、この一種といえるかもしれません。
すると、それが十年前の事であったとしても、感情レベルでは今感じていることになります。
昔の事なのに今怒ってる。
実は、そのことに気がつくことができたら、全然問題ないんですよ。
なぜなら、過去の怒りがある事に気がつく事ができれば、今の自分が冷静に怒りについて考えるゆとりができるからです。「なんで当時はこう思っていたんだろう?」とね。
それは過去の事だから、過去に経験したことだからと理解できれば問題がないんですよ。
ポイントはそれに気づかない事、それを言えない、伝えられないという事、これが非常に危ないんですよ。
気づかないと、過去の感情を「今の感情」として扱いますから、当時の自分と今の自分の区別がつかなくなってしまいます。
相手は今のあなたと対峙していますから、過去の感情をぶつけられても、理解はできないわけです。
それこそ夫婦けんかをしていて、突然奥さんが「そういえば結婚式を挙げて3日目のことだったわ。あなたは寝ているときに、私の顔の前でへをこいたのよ!」と、けんか中に過去の事例を持ち出すなんてことはよくありますよね。
これも、けんかというきっかけから、過去怒りを感じたことが芋づる式に出てきて、そういえばこんなこともあった、あんなこともあったと、いいたくても我慢していたものが一気に吹き出してくるわけです。
これも途中からは感情の再体験になるわけです。
梅干しを見ただけでつばが溢れ出てくるのも、感情が昔梅干しを食べたときのことを思い出しているのと同じです。
皆さんが今、怒っているとしたら、それは今の怒りですか?
それとも、過去からの怒りですか?