2020.8.7 心理学講座 怒りとけんかのコミュニケーション④
第4章「怒りの質」について
怒りというのは色んな形の怒りがあって、それらが複雑に絡み合って、表現されています。
アニメーションを思い出してみてください。
アニメーションは一コマ一コマの絵を少しずつ動かして、連続させることで絵を動かすわけですが、昔のアニメーションはその一コマに何枚ものセル画を使って、一コマを表現していたんです。
目に見えるのは一つの絵かもしれませんが、そこには何枚も重なったセル画によって構成されているわけです。
怒りも同じように、一つ一つの怒りがセル画のように重なって、一つの「怒っている」という絵を見せているんですよね。
では、そのセル画の一枚一枚の例を解説していきたいと思います。
1 愛情からくる怒り
一つ目は愛情からくる怒りというのがあります。
愛情があるときって、相手に対して叱ることってありますよね。
子供をしつけたりするときって愛情がなければ叱ったりする事ができないわけです。
それこそ「本当に危ないから怒る」のは本物の愛情だと思います。
また、サスペンスドラマなどでは、愛しているから恋人を憎んでしまう、というお話はたくさんありますよね。
カウンセリングなどでも、愛しているからこそ、彼のした不貞行為を許すことができないと怒り心頭なお話をよくお聞きします。
それくらい、愛という感情は強く、大きく、そしてエネルギーにあふれているともいえるわけです。
愛と憎しみは表裏一体です。
ちなみに愛情の反対は「嫌い」ではなくて「無関心」ですから、気をつけてくださいね。
2 欲望からくる怒り
2つ目は、欲望からくる怒りです。
これは、金持ちになりたいとか、地位や権力を手に入れたいなど、欲望の感情から出てくる怒りがあります。
地位や権力、お金を手に入れるためには、それ相応のエネルギーを使います。
特に求められるのが瞬発力で、瞬発力を発揮させることができる感情は、怒りが一番適しているわけです。
それはロケットを打ち上げるときのように、最初の発射時のエネルギーが一番勢い良く、強いエネルギーが必要になりますから、それと同じように、欲望が強いほど怒りは出やすいといえるかもしれません。
ただ、これには2つ大きな問題があります。
欲望からくる怒りは、瞬発力に優れていますが、持久力に欠けます。
つまり、絶えず怒りの対象が存在していないと、失速してしまうわけです。
もう1つは、目的を達成してしまうと、そのエネルギーのいきどころがなくなってしまいます。
今まで欲望を持ち、それをエネルギーに進んできたのに、欲望が満たされてしまったらどうすればいいでしょう。
ここで迷ってしまって、道を踏み外す人も多くいるわけです。
恋愛に例えると、ある不倫をしている女性が、どうしても彼を自分のものにしたいと思ったとします。
ここには欲望がありますし、奥さんから彼を奪ってやろうという強いエネルギー(怒り)もあります。
そして、膨大なエネルギーを使って彼を自分のものにできたとします。
この段階では、彼女は幸せですよね。
で、これで話が終わらないのが心の面白いところです。
自分に自信のある方、別に欲望のある方を除いて、多くの女性はいったん欲望が満たされてしまいますから、次の「仮想敵」にあたるターゲットを探さないと怒りが持続できなくなってしまいます。
ここで怒りを使うことをやめられればいいのですが、ほとんどの方が怒りを持続させていきますので、多くの女性が「彼を他の女性に奪われたらどうしよう」という「敵」を生み出していきます。
こうなってしまうと「泥沼の一人戦争」が始まってしまい、すべてを失うまで続いてしまうわけです。
欲望があること自体は悪いことではありません。
大切なのは、打ち上げロケットと同じように、最初は瞬発力で、そして第2弾、第3弾ロケットと移行していき、徐々に瞬発力から持久力に切り替えていくことです。
上手な切り替えを忘れないでくださいね。
3 活力からくる怒り
モチベーションをあげるときなどが、これに該当します。
「なにくそーっ」
「もう絶対、君には負けたくなかったのにこの前、数学で5点負けた、絶対次は負けねーからな!」
ある意味これも1つの怒りなんですよね。
スポーツなどではよく見る光景ですし、少年漫画のライバルもののお話なども、このパターンになります。
少し変わった形では、「火事場の馬鹿力」もここに当てはまるでしょう。
皆さんは夏休みの宿題は、いつやっていましたか?
7月中ですか?
8月に入ってからですか?
8月31日(夏休み最終日)ですか?
2学期が始まってからですか?
私は当然のごとく、8月31日にすべての宿題を徹夜でやっていました。
まあこれだけ良くできるもんだと感心しながらも、普段からやってればこんな苦労しなくてもいいのにと、毎年のように思ったものです。
この火事場の馬鹿力は、活力のエネルギーを一気に放出する方法で、このときに限り自分でも想像できなかった力を発揮するときがあります。
例えるなら、一年分の波動法を一回に集中して使う、みたいな感じでしょうか。
このやり方は無理がききませんから、ご注意を。
4 欲求不満からくる怒り
どこかで欲求不満が募ってきたときに、だんだん怒りがたまってストレスがかかり、ある日ドカンと爆発してしまうというのは、よく聞くお話ですよね。
セックスレスの夫婦にけんかが多いのは、欲望が満たさていないからかもしれませんね。
これは先ほどの「欲望からくる怒り」とは少し違っていて、欲望からくる怒りは自分から欲望を求めていっているのに対して、欲求不満は相手から与えられるものを求めている、というのがあります。
ただ、この欲求不満からくる怒りの困った点は、単純に求めている欲求を満たせばすむ、というわけにはいかないケースがある点です。
例えば、表向きは「かまってくれない」という欲求を持っていたとして、じゃあかまってあげたら欲求が納まるかというと、意外と納まらないんですよね。
なぜなら、このような方の多くは「かまってくれない」ことだけではなく、「かまい方」にも強い欲求があるからです。
東京から大阪に移動しようとしています。
でも、もし「新幹線じゃなきゃヤダ」と考えていて、新幹線が動かなくなってしまったら、さあどうしましょう?
大阪に行くことはできなくなりますよね。
実は、欲求からくる怒りの中には「目的ではなく、やり方へのこだわり」というのがあります。
先の話でいくと、大阪に行くという目的のためであれば、新幹線でなくても飛行機でもバスでもくるまでも船でも方法はあるでしょう。
しかし、東京から大阪に行くのが目的ではなく、「新幹線」という「やり方」にこだわって、目的がなおざりになってしまうんですよね。
このように目的を見失った状態になると、なかなかコミュニケーションを取るのは大変になります。
目的を見失わないように、しっかりと相手を見ておく必要があります。
5 防衛からくる怒り
これは「誰かのせいだ」とか「誰かがわるい」という形ですね。
つまりどこかで、責任を回避する行為でもあります。
まあ、八つ当たりとかもここにあたります。
中には、「自分のせい」にすることで「自分で自分を責めていますから、もう私を責めないでください」という防衛方法もあります。
元々、防衛というのは、自分は誰かから、何かから「攻撃されている」と感じたときに出てきます。
例えばそれが「責任」というものであったとしても、責任から生じるプレッシャーやストレスを「攻撃」ととらえる人も少なくないわけです。
また以前お話しした「仮想敵」を作ることで、自分に対する矛先を変えようとするのも、一つの防衛といえるでしょう。
ではなぜ、防衛と怒りが結びつくのでしょう?
その訳は、このことわざにあります。
「攻撃は最大の防御なり」
怒りは強い瞬発力を持っています。
その瞬発力を持って、相手を攻撃すれば、自分を防御する必要はありませんよね。
誰かに対して常に攻撃的な人は、攻撃をし続けることが最大の防御方法ということを知っているのでしょう。
このような人たちの弱点は、攻勢には強いが守勢に弱いという傾向があります。
こちらが攻撃に転じれば、相手はあっという間に弱くなります。
ただ、危険なのがこの手のタイプの人は追いつめられると物理的攻撃をしてきやすいですから、本当に気をつけなければいけません。
必要以上に関わらないのがベターかもしれませんね。
6 支配的な怒り
これは、相手をある意味でコントロールするために怒りを使います。
一種の脅しもここですよね。
一般的にあるのは、お母さんが子供なんかにに対して
「あんたはダメな子なんだから・・・あんたはダメな子なんだから・・・あんたはダメな子なんだから・・・あんたはダメな子なんだから・・・」
といって育てるのも怒りを使った一つのコントロールです。
そうすると子供というのは「ああ私はダメな子なんだ」と完全に支配下におかれてしまいます。
これは実際に言っている側、コントロールしている側に怒りがあるわけです。
でも、逆にみるとコントロールできないという恐れがあるということでもあります。
これ以外にも、恐怖や恐れを使って相手を自分の支配下、コントロール下におき、自分の意のままに操ろうとする奥底には、支配的な怒り、正確には支配できない、自分の想い通りにならない恐れからくる怒り、といったものがあると思ってください。
7 受動的な怒り
これは以前にも説明しましたが、本人は怒っている自覚が無いのですが、その代わりに周りがどんどん怒るというケースですね。
周りの人に気を使っているにもかかわらず、自分が何かをすればするほど、周りから怒りという形で返ってくるというのが、これに当たります。
昔、とあるお笑い番組のコントで、タンスの引き出しが開いていたので勢い良く閉めると、一番上の引き出しが飛び出して頭にぶつかる、というのがありました。
私は受動的な怒りを「ドリフのタンス」と呼んでいます。
感情は押し込めれば押し込めるほど、周りからにじみ出てしまう、そんな構造になっているかもですよね。
8 反恐怖症的な怒り
これは、簡単な言葉で表すと「復讐」というのが近いですね。
これも本人に自覚があるわけではありませんが、結果として相手に怒りをぶつけたときと同じような効果があります。
防衛からくる怒りと違うのは、防衛は「誰かのせい」にすることで怒りを表現しますが、反恐怖症的な怒りは、「私が悪い」という表現で怒りを表します。
「どうせ自分なんか誰からも愛されていない」みたいな表現は、ここに分類されます。
具体的に例にすると、自分を幸せにしないことで、「自分が幸せになれないのはお前のせいだ」と復讐したい相手に人生を投げ打って復讐するということです。
実際に起こった犯罪にこのようなパターンがいくつか見受けられます。
自分を犯罪者にする事で「こんな犯罪者を作ったのはあんたたちだ」と、無意識で攻撃をするわけです。
実はこのやり方は、自分に愛情を注いでいる相手に対して怒りを向けているんですよね。
でも、ちょっと考えてみてください。
愛情を注いでくれる相手に怒りを向ける?
それはちょっと、と思いますよね。
当の本人も思っているわけですよ。
自分を愛してくれる相手に怒りを向けるだなんて、とね。
でも、思っている事と感情は一致しません。
どれだけ愛情を注いでくれていても、腹が立つものは腹が立つんですよね。
「相手は自分の事をこれだけ愛してくれているんだから」と自分の感情を押し殺すと、どこかで貯まった感情が爆発するわけです。
爆発前の発散に、1〜7のやり方を使っている人も結構いるかもしれませんよ。
9 複合型
実際にはこれらの怒りの質を複合させた形も多く見られます。
先ほどはアニメーションに例えましたが、別のものに例えるならば、カレーみたいなものですね。
いろいろなスパイス混ぜて、甘いカレーもあれば、すごく辛いものもある。
そんな感じに、それぞれの怒りの質をブレンドすることで、怒りそのものを表現しているといえるわけです。
ここまで大まかに「怒りの質」についてお話をしてきましたが、実際にはもっときちっとした分類ができるのかもしれませんし、まだ他にも種類があるかもしれません。
これからどんどん増えてくるかもしれませんし、まだまだ発展途中といえるかもしれませんね。