2020.8.13 心理学講座 怒りとけんかのコミュニケーション⑩

第三部 けんかのプロセス

第10章「けんかのプロセス」について

けんかに限らず、物事には「流れ」があります。

川が上流から下流に流れるように、けんかにも順番があるわけです。

インフルエンザにはウイルスに感染しなければかからないわけですし、そのあと潜伏期間があって初めて症状として現れてくるわけで、この手順が変わることはないわけですよね。

もちろん例外もありますが、ほとんどの場合、このプロセスどおりにけんかが進むと思っていただいていいでしょう。

けんかのプロセスは以下の6段階で進んでいきます。

第1段階 原因

第2段階 潜伏期間

第3段階 表面化(顕在化)

第4段階 正しさの証明

第5段階 本当に伝えたいことは何か

第6段階 理解

これからそれぞれの段階について、詳しく話を進めていきたいと思います。

第1段階 原因

けんかには、ほとんどといっていいほど原因があります。

それは皆さんが認識できている原因ではなく、一番最初の原因に当たるものです。

この段階では、当の本人でも気がつかないくらい、小さな、些細な出来事がほとんどです。

ではなぜ、当の本人でも気がつかないのでしょう?

実は、最初の原因は「我慢できる許容範囲内」であることがほとんどなんですよね。

よく「堪忍袋の緒が切れる」といいますが、この「堪忍袋」に入る程度の怒りであれば、人は我慢ができるわけです。

そして堪忍袋の緒が切れるくらい、袋いっぱいに怒りが溜まってしまって、最終的に緒が切れたときに怒りが表に出てくるわけですが、それまではまったく表面に出てくることはありません。

ですので、ほとんどの場合、気がつかないままに原因が生じ、それが蓄積されていくわけです。

なにしろ、本人が気がつかないくらいの大きさの原因ですから、それを見つけ出すことは容易なことではありません。

この第1段階の原因の見つけ方は、自分の心のちょっとした変化を見つけるしか方法がありません。

ちょっとした不快感であるとか、ちょっとむっとしたとか、ちょっと寂しかったとか、いいたくてもいわずにおいたとか、そういったものが原因のスタートになっているケースが多いんですよね。

もちろん、原因はひとつではありません。

けんかのほとんどが、複数の原因が積もりに積もった結果おこりますから、なかなか原因を探すことが大変なのは皆さんも感じ取ることができるのではないかと思います。

さらに、この原因を探す作業は第5段階で行いますので、それまでは気がつかないことがほとんどといっていいかもしれません。

症状が現れてから風邪を引いたと自覚するようなものですね。

ここで一番問題になるのが、この第1段階の原因ではなく、第3段階の表面化したときが、けんかの原因と勘違いしてしまうことです。

風邪を引いたときというのは、症状が出たときからが風邪を引いたのではなく、ウイルスが体内に入ってきたときからが風邪を引いているわけです。

第1段階はインフルエンザに例えるならば、「ウイルスに感染した瞬間」とたとえたほうがわかりやすいでしょう。

第2段階 潜伏期間

怒りというのは、あることをすると、体に蓄積されていきます。

それは「我慢」です。

「我慢」すれば、その分だけ怒りがたまっていくわけです。

心の中に「怒りの貯金箱」があって、そこに「怒りのコイン」が少しずつ貯金されていくわけです。

もちろん我慢以外にも怒りを貯めていく方法はありますが、それは機会がありましたら説明したいと思います。

では、その貯金箱がいっぱいになるまでの間はどうなっているのでしょう。

例えば、電車で隣の人に鞄をぶつけられたとします。

多くの方は、むっとしてもそれを表に出さず、何事もなかったように振る舞うかもしれません。

しかし、実際には「小さな怒り」がここには出てきているわけです。

それを「我慢」という方法で貯金箱に貯金して、怒りを納めてしまうわけです。

この程度であれば、多くの方は日常生活に問題はおきにくいでしょう。

しかし、この貯金箱がいっぱいになってしまったら、いったいどうなるでしょう。

どんなに貯金箱に怒りのコインを詰め込もうと思っても、もう入らないわけですから、ここが「我慢の限界」になるわけです。

では、怒りの貯金を始めてから、我慢の限界に達するまで、いったいどのくらいの時間がかかると皆さんは思いますか?

正解は、人それぞれなんです。

大きい貯金箱を持っている人は、小さい貯金箱を持っている人よりいっぱいになるまでに時間はかかりますし、同じ大きさの貯金箱でも、一回に貯金する金額が少なければ貯金箱はすぐにはいっぱいになりませんが、一回の貯金の額が多ければ、すぐにいっぱいになるかもしれません。

それは個人の性格や生活環境、いろいろな要素によって、貯金箱の大きさが決まっていると私は感じています。

これが本当にお金であれば、貯金箱がいっぱいになってくれた方がありがたいのですが、それが「怒り」のコインであれば、できればいっぱいになってほしくないというのが人の気持ちでしょう。

一番いいのがたまらないようにすることというのは誰でもわかることですが、例えば自分自身が「怒りのコインを貯金した」ことに気がつかなければ、どうなるでしょう。

自分の気がつかないうちに勝手に怒りが貯金されて、気がついたときにはもうコインが入らない状態になっている。

これがけんかに発展する理由の一つでもあります。

例えれば、勝手に給料から天引きされて、気がついたら貯金箱が満杯になっているようなものですね。

では、その怒りのコイン一つ一つを見てみましょう。

怒りの一つ一つは、たいしたことではないものが多いんですよね。

財布の中から1円がなくなったとしても多くの人が「たいしたことではない」と思えるわけです。

人はそう自分に言い聞かせて、自覚なく「我慢」していくわけです。

これは貯金箱がいっぱいになるまで続きます。

そして、いっぱいになったところで第3段階 表面化(顕在化)となるわけです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です