2020.8.11 心理学講座 怒りとけんかのコミュニケーション⑧
第9章「心の状態」について
けんかというのは、皆さんの中でネガティブなものととらえている方が多いと思いますが、実際にはけんかもコミュニケーションの一表現にすぎないんですよね。
たとえば、みなさんはどのような心の状態にあるときに、けんかをしよう、もしくはけんかになってしまうと思いますか?
1 発散したいとき(八つ当たり)
2 怖いとき(防衛)
3 わかってもらえないとき(欲求)
4 悲しいとき(寂しさ)
5 コミュニケーションをとりたいとき
6 誰かのせいにしたいとき(逃避)
7 自分のせいにしたいとき
8 赦せないとき(怒り)
9 その他(複合型)
大まかに分けるとこんな感じでしょうか。
まあ実際にはけんかのほとんどが複合的な心の状態になっていることが多いんですけどね。
たとえば、会社で嫌なことがあって、それを家族に当り散らせば上記の「八つ当たり」になりますが、それはいやなことから逃れたいという「防衛」や「逃避」も含まれている可能性もあるわけです。
では、次はこれらをひとつずつ細かく見ていきましょう。
1 発散したいとき(八つ当たり)
先ほどの例でも挙げたように、けんかの原因自体はお互いの間にはないのですが、やり場のない感情をどこかにぶつけないとどうしようもないときに、一番心を赦している、もしくは「ここまでやっても自分の事を嫌いにならない」相手に対して、人は八つ当たりをします。
よくある例が、夫に対して怒りをもった妻が、子どもに八つ当たりをしてしまったり、社会でいやなことがあったことを家族のせいにして暴れる男性達などです。
このけんかは「発散する」ことが目的ですので、けんかすること自体にあまり意味がありません。
ただ、八つ当たりをしている等の本人が自覚がないケースがほとんどで、なかにはけんかにならずに虐待やDVにまでいたってしまうこともたまにあります。
2 怖いとき(防衛)
人は「怖い」と感じたとき、本能的に自分を守ろうとします。
それは相手が怒っているかどうかは関係がなく、自分が「怒られている」と感じ、それが「怖い」という感情とセットになった瞬間、防衛を始めます。
「防衛」にはけんか以外にも逃げたり黙り込んだりとさまざまな方法がありますが、けんかになる場合は「攻撃は最大の防御なり」という発想から、けんかに発展することがあります。
相手から攻撃されているのと同じかそれ以上の圧力で、相手にけんかを吹っかけるわけです。
まさに、攻撃は最大の防御なり、ですよね。
このタイプの一番厄介なところは、攻撃している人は、自分が攻撃している自覚も怖がっている自覚もありません。
つまり、全く無自覚に行動しているケースが多いんです。
なぜなら、この手の人はほとんど条件反射で自分を守ろうとしますから、意識する前に心と頭が先に反応してしまうんですよね。
かなりたちが悪いかもしれませんが、基本的に恐がりの人は大なり小なり、この傾向があってもおかしくないんですよね。
自分自身がそうならないように、日頃からしっかりと自己チェックをしておきましょうね。
3 わかってもらえないとき(欲求)
実はこれが、けんかの理由として、一番多いかもしれません。
人は相手に対して「自分の気持ちをわかってもらいたい」と多くの方が思っています。
それを素直に伝えられればけんかをする必要はないのですが、まあそう簡単に素直になれないのもまた人間です。
相手にわかってもらいたいという欲求に気がつかないとき、その欲求は強いエネルギーとなって相手にぶつけられます。
結果として、相手はその強いエネルギーに対応せざるを得なくなりますので、けんかに発展してしまうわけです。
赤ちゃんが大声でなく姿を見ていればわかりますが、全身全霊で泣くんですよね。
赤ちゃんは自分の欲求(おなかがすいた、寂しい、気持ち悪いなど)を表現するのに手加減はしません。
それこそものすごいエネルギーを使って自分の存在を親に知らしめるわけです。
大人になったらこのエネルギーがなくなるわけではありませんよ。
大人だって、同じだけのエネルギーを使って欲求を伝えようとするわけです。
その中の一つに、けんかがあるわけです。
赤ちゃんが大泣きするエネルギーで大人がけんかするって想像したら、どれだけ凄まじいけんかになるでしょうね。
ほとんどの人は気がついていないかもしれませんが、皆赤ちゃんのときと同じだけのエネルギーを使って、けんかしているんですよね。
4 悲しいとき(寂しさ)
まず質問ですが、皆さんは悲しいという感情を感じたいでしょうか?
あまり感じたいという人はいませんよね。
この「悲しみ」という感情を相手に伝えようと思ったとき、感じたくない感情を相手に伝えるのって、実は難しいんですよ。
そうすると、別の感情を使って、「自分は悲しいんです」と伝える方法を多くの方は選ばれるわけです。
しかし、悲しみ以外の感情で、相手に自分の悲しみを伝えるのって、うまくいくでしょうか?
実ほとんどがうまくいきません。
なぜなら、悲しみとまったく違う「怒り」という感情を使って相手に伝えようとするからです。
これは、感じたくない感情を感じないようにするときに、怒りの感情を使うからで、私たちカウンセラーの間では「怒りは感情のフタ」といわれるくらい、一般的な方法になります。
つまり、悲しみよりもより強い感情でなければ、悲しみを感じてしまうからで、悲しみ以上に強い感情は怒りと楽しさくらいなんですよね。
でも、悲しいときに楽しさで表現しても、伝わるとは誰も思わないわけです。
悲しみを隠すにはもってこいですけどね。
そうすると、選択肢が怒りだけになってしまうわけです。
このパターンが一番わかりやすいのが子供です。
子供は迷子になったら、安心するかあきらめるまでは泣かないんですよね。
迷子が見つかって親元にいった子供は、たいていが親にしがみついて甘えるか、ちょっと怒っているかなんですよね。
これは、「淋しかった」という感情が表現できないから、と私は感じているわけです。
子供って、よく観察すると、いろいろ勉強になりますよ。